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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)6516号 判決 2000年6月29日

原告

株式会社日本クリンエンジン研究所

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

敦賀彰一

川上正彦

被告

株式会社エーゼット

右代表者代表取締役

【B】

被告

【B】

右両名訴訟代理人弁護士

露口佳彦

右補佐人弁理士

【C】

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一六五〇万円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事実関係(各項掲記のもののほか、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、各種自動車、船舶、航空機、建設機械等のエンジン及び付属機器の研究開発並びに販売及びこれらに付帯する特許権の貸与及び譲渡等を業とする株式会社である。

(二) 被告株式会社エーゼット(以下「被告会社」という。)は、潤滑油及び潤滑剤の製造及び販売等を業とする株式会社であり、被告【B】(以下「被告【B】」という。)は、被告会社の代表取締役である。

2  本件特許権

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」、本件発明の特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)を存続期間満了まで有していた。

特許番号 第一二〇七八二七号

発明の名称 携帯用定容積比率混合容器

出願日 昭和五三年一一月三日(特願昭五三ー一三五九四九)

公告日 昭和五八年六月一六日(特公昭五八ー二八五二九)

登録日 昭和五九年五月二九日

特許請求の範囲

「1a 容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定であるような、少なくとも2つの室と、

b 前記室内へ各組成成分を注入するために、前記各室の略頂部に各々各室毎に別個に設けられた開口部と、

c 該開口部をそれぞれ密閉しうるように装着された蓋と、

d 前記室相互間を連通せしめるための連通手段とより成る、2以上の組成成分を定量比率にて混合することのできる容器。

2  前記容器内に小容器を収納することにより、前記少なくとも2つの室が形成されている特許請求の範囲第1項記載の容器。

3  前記容器内に仕切壁を設けることにより、前記少なくとも2つの室が形成されている特許請求の範囲第1項記載の容器。

4  前記連通手段が、連通口である特許請求の範囲第2項又は第3項記載の容器。

5  前記連通手段が、連通管である特許請求の範囲第2項又は第3項記載の容器。」〔甲一(本件発明の特許公報、以下「本件公報」という。)〕

3 本件発明(特許請求の範囲第1項)は、次の構成要件に分説することができる(以下、分説された構成要件を、その符号に従い「構成要件a」のように表記する。)。

a 容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定であるような、少なくとも二つの室と

b 前記室内へ各組成成分を注入するために、前記各室の略頂部に各々各室毎に別個に設けられた開口部と

c 該開口部をそれぞれ密閉しうるように装着された蓋と

d 前記室相互間を連通せしめるための連通手段よりなる、二以上の組成成分を定量比率にて混合することのできる容器

4  被告会社は、平成九年八月ころから、別紙イ号図面記載の携帯用定率混合容器(以下「イ号物件」という。)を製造、販売している。

イ号物件の構成を分説すると、次のとおりとなる(以下、分説された構成を、その符号に従い「構成(イ)」のように表記する。)。

(イ) 容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aと第二室Bとの横断面積比率が第一室Aの目盛一~二・五リットルまでの間は一定であり、目盛二・五~四・五リットルまでの間の両室の横断面積比率は略一定であるが、前記目盛一~二・五リットル以下の部分の比率とは異なり、

(ロ) 前記室A、B内へ各組成成分を注入するために、前記各室A、Bの略頂部に各室毎に別個に設けられた開口部と、

(ハ) 該開口部をそれぞれ密閉しうるように装着された蓋と、

(ニ) 前記室A、B相互間を連通せしめるための連通手段C、C′より成る二つの組成成分を混合することのできる容器。

5  原告は、本件発明の特許出願後、本件発明を商品化した製品(以下、この商品を「原告製品」という。)を「安全混合容器ポリミックス」の名称で販売しており、被告は、平成九年八月ころから、イ号物件を「ハウスキャット混合計量タンク」の名称で(以下、この商品を「被告製品」という。)販売している(甲四、七の1~3)。

6  原告は、①主位的に、被告会社がイ号物件を製造販売する行為が、本件特許権を侵害すると主張し、②予備的に、被告会社による被告製品の販売が不正競争防止法二条一項一号に該当すると主張して、被告会社及び代表者である被告【B】に対し、連帯して金一六五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年九月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

二  争点

1  イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するか。

2  被告製品の販売は、不正競争防止法二条一項一号に該当するか。

3  被告らが原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するか)について

【原告の主張】

1 相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)が特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断するに当たっては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法七〇条一項)、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には、右対象製品等は、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。しかし、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、①右部分が特許発明の本質的部分ではなく、②右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。

イ号物件は、以下のとおり、前記五要件を充足するものであるから、本件特許の構成と均等なものとして、本件発明の技術的範囲に属する。

(一) イ号物件は、容器を通常の姿勢に置いた場合、①第一室Aの目盛一~二・五リットルまでの部分(以下「甲部分」という。)と、②第一室Aの目盛二・五~四・五リットルまでの部分(以下「乙部分」という。)という二つの部分からなり、甲部分では、第一室Aと第二室Bとの横断面積比率が一定であり、異なる組成成分を別個の室にそれぞれ流入させると、両室の水面を同一レベルにすることにより一定比率の混合が可能であるのに対し、乙部分では、右横断面積比率が甲部分におけるものと異なっており、各成分を同様に流入させても、同一結果は得られない。しかし、甲、乙部分で右横断面積比率が異なっているといっても、その差は微々たるものである。本件発明とイ号物件は、いずれも、二つの室の水平断面積比率を同一にして二つの室にそれぞれ同レベルになるように異なる液体を入れ、両者を混合して所望の量の混合液を得ることを目的としていて、精密な正確さを要求するものではないから、二つの室の底部から上部までを同一断面比率にすることは必須の要件ではない。イ号物件の構造は、単に甲部分に乙部分を付加したものにすぎず、乙部分は本件発明の本質的部分とはいえない。

(二) イ号物件は、甲部分においては、本件発明と構成も作用効果も同一であるから、乙部分のみを構成(イ)のように「両室の横断面積比率は略一定であるが、前記目盛一~二・五リットル以下の部分の比率とは異なるもの」に置換しても、本件発明の目的を達することは可能であり、本件発明と同一の作用効果を奏する。

(三) イ号物件のうち、乙部分は、異なる組成成分を両室の水面が同一レベルになるよう流入させても一定比率に混合させることができず、何の目的も達せられないから、かかる乙部分を本件発明と同一である甲部分に付加することには研究、開発の必要がない。よって、当業者である被告会社は、イ号物件の製造時点において、本件発明中、乙部分(第一室Aの目盛二・五~四・五リットルの部分)のみを構成(イ)のように置き換えることに、容易に想到することができたものである。

(四) イ号物件においては、乙部分を付加したことの技術的意義がなく、乙部分をもって、作用効果の相違点として取り上げる法的意味は皆無である。したがって、本件特許出願時において、乙部分を付加することが公知「技術」とはいえないし、このように、技術的に無価値で無目的な乙部分を付加することは、当業者のみならず、何人においても、出願時に容易に推考できるものではない。

(五) イ号物件は、本件発明を模倣し、その一部(乙部分)を変形させただけにすぎず、その結果、本件発明の特徴である計量混合の正確性を損なっている。

このようなものを本件発明の技術的範囲から除外すれば、原告が損害を被ることは容易に予測し得るから、本件発明の特許出願手続において、原告がイ号物件のようなものを特許請求の範囲から意識的に除外することはあり得ない。

2 被告らは、イ号物件は、第一室Aの目盛二・五~四・五リットルの領域に入ると、両室の断面積比率が変わることにより、両室の水面を同一レベルにしても、二つの液体を一定比率で混合することができなくなるとして、イ号物件と本件発明とでは、構成上の作用効果が明らかに異なると主張する。

しかしながら、被告らの主張に従うと、本件発明の一部を変形させ、より劣悪な製品を製造することによって、容易に特許権侵害を回避できるという極めて不合理な結果になり、かかる主張は不当である。

【被告らの主張】

1 特許発明の技術的範囲に含まれるというためには、特許の構成要件及び作用効果をすべて満たすものでなければならず、特許の構成要件を一部でも欠き、特許の作用効果を達成し得ない場合には、特許発明の技術的範囲に属しないものといわざるを得ない。

イ号物件の構成を本件発明の構成要件と対比すると、構成(イ)は、「二つの室からなる」という範囲で構成要件aと一致し、構成(ロ)及び(ハ)は、構成要件b及びcに各々一致し、構成(ニ)は、「室相互間を連通せしめるための連通手段より成る二つの組成成分を混合することのできる容器」という範囲で構成要件dと一致する。しかし、構成(イ)は、第一室Aの目盛一~二・五リットルの部分(甲部分)では、第一室Aと第二室Bの横断面積比率が一定であるが、第一室Aの目盛が二・五を越えて、二・五~四・五リットルの部分(乙部分)になると、両室の横断面積比率が、前記目盛一~二・五リットルの部分における両室の横断面積比率と異なるため、構成要件aのうち、「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積が実質上いかなるレベルにおいても一定であるような、少なくとも二つの室」という要件を満たさないし、構成(ニ)は、構成要件dのうち、組成成分の混合を「定量比率」で行うという要件を満たさない。

2 本件明細書によれば、本件発明は、「小形の容器において、別個の計量器等を要することなく、組成成分を一定比率にて混合することを目的とし、容器を通常の状態においた場合相互の断面積比率が実質上いかなるレベルにおいても一定であるような二つ以上の室を設けることにより、両室の異なる組成成分を同一レベルにするだけで、一定比率に混合される」との作用効果を有しており、このことは、本件公報記載の第1図ないし第5図の実施例が、いずれも各室の各レベルにおける断面積比率を一定としていることからも裏付けられる。したがって、本件発明において、構成要件aのうち、「相互の断面積比率が実質上いかなるレベルにおいても一定であるような、少なくとも二つの室」という要件は、発明の目的を達成するために必要不可欠なものである。

これに対し、イ号物件は、異なる組成成分を別個の室に各々流入させると、第一室Aの目盛一~二・五リットルまでの範囲(甲部分)では、各室の水面を同一レベルにすることにより、二つの液を一定比率に混合させることが可能であるが、第一室Aの目盛が二・五~四・五リットルの領域(乙部分)に入ると、両室の断面積比率が、第一室Aの目盛二・五リットルの範囲における両室の断面積比率と異なることから、各室の水面を同一レベルにしても、二つの液を一定比率で混合することができなくなり、この場合に二つの液を一定比率で混合するには、あらかじめ各室に入れる液の分量を計量しなければならない。したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件aを具備しておらず、本件発明の技術的範囲に属しない。

二  争点2(被告製品の販売は、不正競争防止法二条一項一号に該当するか)について

【原告の主張】

本件発明は、前記第二、一、2の出願経過を経て、本件特許権の登録がなされた昭和五九年五月二九日以降、「携帯用定容積比率混合容器」の名称で広く知られるところとなり、これを商品化した原告製品は、「安全混合容器ポリミックス」の名称で爾来二〇年以上にわたって販売され、日本国内に広く認識されるに至っている。しかるに、被告らは、一般の需要者または取引者において、両者を判断することが困難な手段を用いた被告製品を製造販売することにより、原告製品と類似混同させる行為を行った。

【被告らの主張】

原告の不正競争防止法二条一項一号の主張は争う。

三  争点3(被告らが原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額)について

【原告の主張】

1 主位的主張(特許権侵害)

被告会社は、遅くとも平成九年八月ころから、被告製品を少なくとも三万個以上製造、販売した。

原告製品の販売により原告が受けるべき利益は、一個につき少なくとも金五五〇円であるから、右販売個数に相当する利益は金一六五〇万円である。

被告【B】は、被告製品の製造、販売が本件特許権を侵害することにつき故意又は重大な過失がある。

2 予備的主張(不正競争)

被告らは、故意により、前記不正競争行為を行い、その結果、原告の信用を毀損したものであり、原告の受けた損害額は一六五〇万円とするのが相当である。

さらに、原告は、原告訴訟代理人に本訴の提起を依頼し、弁護士報酬として一〇〇万円を下らない金額を支払う旨約し、同額の損害を被った。

【被告らの主張】

原告の主張は争う。

第四当裁判所の判断

一  争点1(イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するか)について

1  イ号物件の構成を本件発明の構成要件と対比すると、構成(ロ)が構成要件bに、構成(ハ)が構成要件cにそれぞれ一致していること、構成(イ)は、容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aの目盛一~二・五リットルまでの範囲において、両室の横断面積比率が一定であるという限度で、構成要件aに合致し、構成(ニ)も、「室相互間を連通せしめるための連通手段より成る二つの組成成分を混合することのできる容器」という限度で、構成要件dに合致していることが認められる。

しかしながら、イ号物件は、容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aの目盛が一ないし二・五リットルの範囲(甲部分)においては、第一室Aと第二室Bの相互の横断面積比率が一定に保たれているものの、別紙イ号図面のとおり、第一室Aが目盛二・五ないし四・五リットルの範囲(乙部分)において、内側に凹型に陥没する形状を呈して段部を形成していることから、第一室Aの目盛が二・五リットルを越えた部分では、第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率が、第一室Aの目盛一ないし二・五リットルの範囲における第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率と比べて小さいことが認められる(検甲二。甲部分と乙部分における第一室Aと第二室Bの横断面積比率の差が無視し得るような微小のものともいえない。)。

したがって、イ号物件は、構成要件aのうち「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定である」という部分を充足せず、その結果、構成(ニ)も、構成要件dのうち「定量比率」という部分を満たしていないといえる。被告らは、イ号物件の構造は単に甲部分に乙部分を付加したものにすぎないと主張するが、構成要件aは、二つの室の断面積比率が「実質上如何なるレベルにおいても一定である」ことを要するから、甲乙両部分を通じて第一室Aと第二室Bの横断面積比率が一定でなければならず、乙部分を単に甲部分の付加であるとみることはできない。

よって、イ号物件は、本件発明の構成要件のうち、構成要件a及びdを充足していないというべきである。

2  原告は、イ号物件に、文言上本件発明の構成要件と異なる部分があるとしても、イ号物件は、均等として本件発明の技術的範囲に属すると主張するので、以下、この点について検討する。

(一) 原告も主張するとおり、特許請求の範囲に記載された構成中に、対象製品等と異なる部分が存する場合でも、①右部分が特許発明の本質的部分ではなく、②右部分を対象製品等におけるものと置換しても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであり、③右のように置き換えることに、当業者が対象製品等の製造時点において容易に想到することができ、④対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。

その際、右要件①にいう「特許発明の本質的部分」とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、当該特許発明特有の作用効果を生じさせるための特徴的部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。

(二) 本件明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、本件発明は、「2以上の組成成分を定量比率にて混合するための容器に関する」ものであり(本件公報2欄3~4行)、発明の目的は、「従来ガソリンとオイル、薬品と希釈用水等、異なる液体等の組成成分を一定比率で混合するには、各々をメスシリンダ等により計量し、混合器内で撹拌混合する必要があり、その手数が煩雑で且つ計量器の携帯等が必要であった」ことから、「別個の計量器等を要することなく、液体、粉体、粒状体等の組成成分を定量比率にて混合することのできる小型の容器を提供すること」(本件公報2欄6~14行)にあるとされている(甲一)。そして、右「発明の詳細な説明」の欄によれば、本件発明は、この発明の課題を解決する原理として、「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定であるような、少なくとも2つの室と 前記室内へ各組成成分を注入するために、前記各室の略頂部に各々各室毎に別個に設けられた開口部と 該開口部をそれぞれ密閉しうるように装着された蓋と 前記室相互間を連通せしめるための連通手段」(本件公報2欄15~22行)とよりなる構成を採用したものと認められる。

また、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄及び添付図面第1図ないし第5図には、本件発明の実施例として五種類の容器が示されているが、そのいずれについても、容器を通常の姿勢に置いた場合、容器内の各室相互間の各レベルにおける断面積比率を一定とするものであることが明らかである(甲一)。

以上によれば、本件発明は、二つ以上の組成成分を計量器等で計量する手数を省き、簡易な手法によって各成分を一定比率で混合することを可能とする混合容器を提供するという発明の課題を解決するために、「容器を通常の姿勢に置いた場合、容器内に形成された二つ以上の各室について、その底部から上部までの各レベルの横断面積比率をすべて同一にする」という解決原理を採用したものと解されるから、本件発明の構成要件aの「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定である」という点は、本件発明の本質的部分に当たるものというべきである。

(三) 前記1のとおり、イ号物件は、容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aの目盛が一ないし二・五リットルの範囲(甲部分)においては、第一室Aと第二室Bの相互の横断面積比率が一定に保たれているが、第一室Aの目盛が二・五リットルを越えた部分(乙部分)では、第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率が、第一室Aの目盛一ないし二・五リットルの範囲における第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率と比べて小さい点で、本件発明と異なっており、かかるイ号物件によって定量比率の混合液を得るためには、第一室Aと第二室Bに各々付された目盛に従って、あらかじめ所定の混合比率になるよう、各組成成分の分量を計量した後、各室相互間を連通せしめる連通部分を通して、二つの組成成分を混合する必要があると認められるから(甲二の1)、両者は技術的思想を異にするものといわざるを得ず、イ号物件と本件発明との相違部分である「第一室Aと第二室Bとの横断面積比率が、第一室Aの目盛が一ないし二・五リットルの範囲と、第一室Aの目盛が二・五ないし四・五リットルの範囲で異なる」点は、まさに、本件発明の本質的部分に関する相違点であるといわざるを得ない。

(三) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件は、本件発明と均等として、その技術的範囲に属するものとは認められない。

二  争点2(被告製品の販売は、不正競争防止法二条一項一号に該当するか)について不正競争防止法二条一項一号は、他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器もしくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。)として需要者間に広く知られているものと同一又は類似の商品等表示を使用して、その商品又は営業の出所について混同を生じさせる行為を規制するものであり、商品形態は、本来、商品の出所を示すものではないが、当該商品形態が他の同種商品と比較して特異ないし独特であり、形態が長期間独占的、排他的に利用されるか又は短期間でも強力に宣伝広告されたことなどにより、形態のもつ個別性が取引者又は需要者に認識され、その結果、特定の企業の商品の出所を示す表示として周知性を獲得するに至る場合があり得るものと解される。

証拠(甲四、六)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発明の特許出願後、本件発明を商品化した原告商品を販売し、また他業者に通常実施権を与えて販売させていること、原告は、平成二年ころ、原告製品の類似品を販売した業者に対し、刑事告訴や特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟等の対抗措置を採ったことが認められるが、右事実によっても、「容器内に二つの室を備え、その水平断面積比率が実質上全レベルにおいてほぼ一定であり、両室が連通 手段により連通された形状の携帯混合容器」という本件発明を製品化した原告製品の形態が、需要者である一般消費者の間において、商品の出所を示すまでに広く認識されていることを認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

三  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 阿多麻子 裁判官 前田郁勝)

<以下省略>

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